戦略別のヘッジファンドの運用残高ランキングを、イーベストメント社のデータを用いて紹介する。
2019年10月末時点のデータであり、1ドルは108円換算とした。
◆ヘッジファンド戦略ランキングは
運用残高 | 戦略 | 運用残高 |
1位 | 株式ロングショート | 82,563億円 |
2位 | イベントドリブン | 60,749億円 |
3位 | マルチストラテジー | 56,120億円 |
4位 | グローバルマクロ | 26,551億円 |
5位 | ディストレスト債券 | 25,172億円 |
6位 | 債券リラティブバリュー | 24,701億円 |
7位 | クレジットディレクショナル | 16,736億円 |
8位 | マネージドフューチャーズ | 12,630億円 |
9位 | モーゲージ債 | 11,255億円 |
10位 | 株式マーケットニュートラル | 8,190億円 |
11位 | 転換社債 | 6,030億円 |
株式ロングショート戦略
ヘッジファンドの戦略の中で一番運用残高の多いのは株式ロングショート戦略となった。通常金融機関のリサーチアナリストは自動車や金融など特定業界のリサーチに従事することが多い。通常の投資信託のような買い(ロング)のみの運用の場合、他業種のアナリストと協力しながら、業種を分散してリスクを分散することが多いが、株式ロングショート戦略の場合は特定の業種の中でも、買いと売りの両方のポジションを持つことでリスクのコントロールができる。このため少ない人材でヘッジファンドを立ち上げることができ、運用開始時に必要なシステムなども少なくできることから、ヘッジファンドとしては伝統的かつ参入しやすい戦略といえる。
イベントドリブン戦略
次にランクインしたのはイベントドリブン戦略となった。イベントドリブン戦略は個別企業の重要イベントからリターンを狙う戦略である。例えば合併・買収・事業再生などから、インデックス採用、脱落まで様々な企業の業績などの「ファンドメンタルズ」の変更以外の事象による価格変動からリターンを狙う戦略である。時にハゲタカと呼ばれるバイアウトファンド等やTOB時に買収企業株を空売りし、被買収企業を購入するリスクアービトラージ戦略まで、個性豊かな戦略が特徴だ。比較的安定した資金調達を好み、大口からの投資のみを受け付けることが多い。
マルチストラテジー戦略
3番手のマルチストラテジーは複数のヘッジファンド戦略を組み入れた運用となる。一つのヘッジファンド戦略では成績によい時と悪い時のばらつきが出るため、運用を安定させる効果が見込まれる。ただし一社の社内に複数の戦略を構築できるだけの人材や資材を集めることは難しいといわれており、一部外部に運用を委託する場合などもみられる。
グローバルマクロ戦略
4位のグローバルマクロはトップダウン型といわれる運用が主流だ。主に流動性の高い投資対象に、今後の経済事象などから動向を予測してポジションを構築することが多い。投資対象が多岐にわたり、一般的にファンドのキャパシティも大きいので、有名ヘッジファンドに多い戦略である。「イングランド銀行を負かした男」として有名なジョージ・ソロスは、グローバルマクロ戦略のクォンタムファンドを運用して名を馳せた。
ディストレスト戦略
5位はディストレスト戦略といわれるヘッジファンドである。2位のイベントドリブンに近いが、企業が破綻・またはそれに近しい企業の債券を買い取り、事業の分離売却や、リストラクチャリング、またはデットエクイティスワップによる株式転換による事業参加により企業再生をねらう戦略である。債券の売買だけでなく、事業経営に参加することもあるため、幅広い経験とノウハウを必要とする戦略である。流動性の低い投資対象であるため、イベントドリブンとともにロックアップ期間が設定されることも多く、比較的大口の投資家に門戸を開いている。
債券リラティブバリュー戦略
6位は債券リラティブバリュー戦略となる。これは割安な債券を購入し、割高な債券を売却することによりリターンを目指す戦略である。現物市場と先物市場の価格差や信用格差の収束を期待して投資をしたりする。一般に債券の価格の歪みは小さいことが多く、レバレッジを使って大量に売買することによりリターンを得ることが多い。そのため戦略としてレバレッジが大きいことも特徴と言えるだろう。
クレジットディレクショナル戦略
7位は6位に続き債券を利用したヘッジファンドとなった。クレジットディレクショナル戦略は、ロングオンリーの債券戦略ととらえてよいだろう。通常の債券投資以外に割賦債権や診療報酬受給権などを流動化したファクタリング債や、船荷証券などで使われる、ブリッジローン、マイクロファイナンスなどが考えられる。
マネージドフューチャーズ戦略
8位マネージドフューチャーズは先物運用のファンドである。市場があることや、比較的流動性が高い投資対象であることから、テクニカル運用が多い戦略である。比較的リスクは高めで、株式程度のリスクを取っていることが多い。株式との相関性が低いことから分散投資先として組み入れられることが多い。
モーゲージ債戦略
9位は住宅ローンを証券化したモーゲージ債となっている。モーゲージ債は住宅ローン特有の早期償還のリスクがあるためモーゲージ債というのはサブプライムローンで問題になった投資対象であるが、信用力の高いプライムローンに関しては大きな問題にはなっていない。しかしモーゲージ債は金融機関のバランスシートからオフバランスできてしまうことが、その後の担保債権の信用力の維持に対し、責任不在となり、過度な発行を促したとの批判は強い。欧州を中心に金融機関のバランスシートからオフバランスできない住宅担保証券といえるカバード・ボンドが発行されており、徐々にその評価を高めている。
株式マーケットニュートラル戦略
10位の株式マーケットニュートラルは空売りができ、レバレッジを利用できるヘッジファンドならではの運用手法と言えそうだ。近代ポートフォリオ理論は市場リスクとその他の個別のリスクを分け、適切に分散することで、個別のリスクを下げ、市場リスクを中心にリスクを取ることで、リターン当たりのリスクを減らすことができると考えている。この市場リスクを純粋に抽出することが、逆にマーケットリスクをゼロにして、個別のリスクからのみリターンを狙う、マーケットニュートラル戦略を生み出した。インデックス投資が市場リスクを取る代表格だとすると、マーケットニュートラルはその反対に位置するといっていいだろう。戦略債券レラティブバリューと同じく、割安な株を買って割高な株を売るのだか、その時に市場リスクβをゼロにするようにポジションを取ることが特徴である。
転換社債型ヘッジファンド戦略
11位は転換社債型ヘッジファンドとなった。転換社債型は通常アービトラージ戦略を取ることが多い。転換社債は株式の特徴と債券の特徴を両方とも持ち、価格変動自体にプレミアムが生まれるオプション的な性格もあることから、価格の歪みを狙いやすい投資対象といえる。転換社債の発行量が昔より減ってきており、市場規模自体が小さくなってきていることから、残高が11位と低くなっているものと思われる。