ヘッジファンドにはどのようなリスクがあるのだろうか。
代表的なリスクとしては以下のものがあげられる。
1. 市場リスク(価格変動リスク、金利変動リスク)
2. 信用リスク(デフォルトリスク、決済リスク)
3. 取引先リスク(カウンターパーティリスク)
4. 流動性リスク(現金化リスク)
5. オペレーショナルリスク
その他ヘッジファンド特有のリスクとして
1. 透明性リスク
2. モデルリスク
3. キャパシティリスク
等が考えられる。
1. 市場リスク(価格変動リスク、金利変動リスク)
通常の株式や債券に投資することで生じるマーケットリスクのこと。ヘッジファンドはレバレッジを使うことにより、通常の数倍市場リ
スクを取っていることもある。また一方マーケットニュートラルと
いわれる戦略や債券アービトラージといわれる戦略ではこうしたリ
スクを積極的には取らない手法もある。
2. 信用リスク(クレジットリスク)
債務者の財務状態の悪化により返金が困難になるリスクのこと。デフォルトリスクともいう。ヘッジファンドでは通常の社債の他に
ブリッジローンやファクタリング等様々な債権が投資対象となる。
このような投資先のヘッジファンドを選ぶときは通常の価格変動リ
スク以外に信用リスクを十分に理解しておくことが重要となる。
3. 取引先リスク(カウンターパーティリスク)
取引先が倒産することにより被害を受けるリスク。2011年デリバティブ(金融派生商品)の仲介大手MFグローバル・ホールディング
スが倒産した。この倒産により、顧客は口座へアクセスができなくり、
また資産の一部が行方不明となった。デリバティブ取引などは関係
会社の数が増え、また取引先に依存する手続きも多いため、カンター
パーティリスクが高まる傾向がある。
4. 流動性リスク(現金化リスク)
未上場企業など、市場のない相対取引の金融市場では、現金化したいときに売却ができなくなるリスクがある。これを流動性リスクとい
う。2016年7月にイギリスの不動産リートが解約を一時停止するサ
スペンデッドが相次いだ。イギリスの国民投票によるEU離脱によ
り、売りが殺到し、市場機能が低下し、適正な価格で売却が不可能と
なった運用会社が売却の一時停止を決めた。イギリスの場合は一時
的な売却停止であったが、ランドバンキングのような新興国の不動
産などは10年以上売れないものもある。
5.オペレーショナルリスク
注文執行リスクや事務リスク、法務コンプライアンスリスク、システムリスクなどが含まれる。ヘッジファンドは一人のファンドマネー
ジャーの裁量が多いことから、過剰なリスクなどを取ることも多い。
そうしたことを防ぐために適切なリスク管理耐性の構築などが必要
となる。
オペレーショナルリスクについては、事務管理会社であるアドミニ
ストレーターや、売買執行、分別管理を担当する、カストディやプライ
ムブローカー、法律事務所や、監査法人など適切なインフラストラク
チャーを構築することで逓減させることができる。
1. 透明性リスク
複雑な金融商品を取り扱う場合、情報の透明性が低いことがリスクとなる。一般的にヘッジファンドは通常の投資信託に比べ情報公
開の義務は少なく、取引内容は分からないことが多い。そのため自分
では理解していないようなリスクを取っている場合がある。ただし
透明性を高めることはリターンを獲得する機会を失うことにもなり
かねず、バランスの良い情報開示が必要となる。
2. モデルリスク
モデルリスクには、プライシング・モデルに関わるリスクとリスク計測モデルに関わるものが代表的なリスクとなる。プライシング・モデ
ルリスクは、理論価格のモデルが間違っていたことにより、誤ったポ
ジションを構築して損失を被るリスクをいう。一方、「リスク計測モ
デル」に関わるリスクは、将来被る損失の可能性を誤って評価するリ
スクをいう。ノーベル経済学賞受賞者が参加した有名なロングター
ムキャピタルマネジメントの破綻は、プライシング・モデルとリス
ク・モデルの複合的な要因により破綻したと考えられる。
3. キャパシティリスク
運用残高が増加したことにより、運用効率が下がっていくリスクをキャパシティリスクという。ヘッジファンドはレバレッジを使い、高
速な取引を行う戦略もある。こうしたヘッジファンドの場合、運用残
高が増加することで、注文執行時のマーケットインパクトが大きく
なり、モデル通りの売買ができなくなることがある。また流動性の少
ない市場ではモデル通りのポジションの構築に時間がかかるなど、
少額の時にできた取引が困難になっていくことがある。
ここでは一般的なリスクを取り上げた。ヘッジファンドには上記以
外のリスクがあることもある。改めて注意喚起を促したい。
ヘッジファンドには通常の金融商品でいわれるボラティリティとい
われる、正規分布を前提とした価格変動リスク以外のリスクが多数
存在する。例えば非正規分布的な価格推移をするオプション的な資
産や、理論値で価格を出しており、大量の売却が出て初めて市場価格
で再評価される資産に投資している場合もある。例えば、仕組み債や
ライフセトルメント債券などが代表として挙げられる。参考になれ
ば幸いである。